2010 UCIパラサイクリングロード世界選手権

ハードなコースを3選手は奮闘 奥村が10位に入りポイント獲得



 今大会参加にあたりまして、ご支援ご声援頂きました関係者の皆様、ありがとうございました。 厚く御礼申し上げます。 これからも何卒よろしくお願い申し上げます。

 日本障害者自転車協会理事 チームマネージャー栗原朗

 2010UCIパラサイクリングロード世界選手権は当初のコロンビア・カリでのロードトラック一括開催から変更になり、ロードはカナダ・ケベック州ベ・コモで開催。
 今年からロンドン大会に向けてのポイント争いが始まり、日本もナショナルチームを編成して準備を開始。 今大会には 藤田征樹(C3,チームチェブロ/日立建機) 阿部学宏(C5、スペードエース/銚子屋本店) 奥村直彦(H3,風輪道)の3名の選手が派遣された。

 日本チームは8月16日に成田を出発。 バンクーバー・モントリオール(1泊、ただし滞在時間は5時間ほど)を経由して現地時間17日昼前にようやく開催地に到着。 成田からの長旅に加えて、主催者からの指示により17日朝5時半にモントリオール空港に集合させられたが、バスの中で待たされたり、ベ・コモまでの大会専用便が霧のため離陸が遅れたり、現地に着いた時には選手はぐったり。 少し休憩をしたのち、スタート・ゴールエリア至近のビルに用意された倉庫に行き、自転車を組み立て、コースを走り始めた。 
 今回のコースはこれまでの世界選でもっとも厳しいコースといえるものだ。1周11.4キロのコースだがアップダウンが多い。特に、1キロ超の長く10%ほどの勾配のある登りは過酷で選手の体力を著しく奪っていくことは間違いない。また一部海沿いに面し、風が強い。 自転車の醍醐味であるロード競技の最高の大会にふさわしいと言えるかもしれない。選手にとっては大変だが・・。
 現地は、太陽の下では半そでで丁度良いが、日陰になったり風が吹くと長袖が必要。日本とは大違い。ただ、室内はエアコンも無く少し暑さを感じることも。 連日気温は最高25度も行かないくらいで、朝は少し寒いくらいの時もあった。
 18日は朝は少し遅めの朝食。長旅のため、前夜はさすがに皆ぐっすり寝た様子。 長旅の疲れはかなり取れたようだ。さすがに日本代表として来ている選手の体力と気力は違う。
 午後からの公式練習でさらにコースを確認。皆調子は良さそう。

(左より)藤田 奥村 阿部
 夕方にはチームマネージャーミーティングがあり、TTでのサポートカー・バイクチェック・RRでの同時スタートと時差スタートのクラスについての取り扱いなど細かい指示があった。また夜7時からは開会式が行われ、ロードの大会らしい盛り上がり方が見られた。
 今大会はいつもに増して主催者がとても熱心できめ細かい。特に若いスタッフを中心に、丁寧で熱心な対応が目立った。盛り上げ方も非常にうまく、スタート・ゴールエリアに集まった観客の数はおそらくこれまでで最高では。スタート前の手拍子、ゴールしてくる選手への盛り上げ方、などなど、ロードレースの面白さをまさに堪能させてくれるものだった。その予感は開会式の時に強く感じ、その通りだった。ロードは本当に面白い、自転車の醍醐味、と改めて感じさせてくれた。

8月19日(木)1日目 ロードタイムトライアル
奥村が健闘 10位に入りUCIポイントを獲得

 最初の2日間はタイムトライアルが行われる。この日の日本選手では、男子H3クラスに奥村直彦が出場。(2周22.8キロ) ハンドバイクの選手にはかなり厳しいコースプロファイルだが、奥村の高いキャパシティであれば、十分対応できるはず。期待に応え、10位に入り、UCIポイントをゲットした。

 この日の奥村は朝から緊張気味。いつもの物静かなジェントルマンの様子が見られない。それでもアップなどの準備は予定通り順調。
 午後1時33分、クラス6番目にスタートランプから飛び出した奥村。初周は少しばかり押さえ気味に行ったと後に述べたとおり、2周目に入っても衰えは無い。課題の登りも、うまく回し切って超えていく。悪くない。そして何よりも抜群のコース取り。早くからインに突っ込んだりすること無く、スピードを落とさず無理に手を使うことも無くスピードに乗ってコーナーに入っていく。これは他の選手と比べても優れていた。無駄のない走りでゴール。
 レース直後にコミッセールから示された非公式リザルトでは11位となっていたが、公式リザルトではこれが修正されて10位にランク。これでUCIポイントを獲得だ。
 レース後は、ホッとしたのか、スタート前の緊張した表情も無く、笑顔も見られた。長きにわたって苦労・努力を重ねてきた奥村の10位に他の選手・スタッフから祝福が送られた。これも普段から紳士的でサイクリストとしても知識豊富な奥村だからかもしれない。ロンドンに向けての最初のポイント獲得。おめでとう!

 H3男子の優勝はフランスのJeannotでタイムは41分0秒26、時速にして33.3キロ。 また他のクラスでは、男子T2はイギリスのDavid Stoneが昨年の雪辱を果たして優勝(1周、21分6秒、時速32.3キロ)。ハンドバイクにもトライシクルにも厳しいコースであるが、やはり世界のトップクラスにはそんなことは関係が無いのだろう。 また、女子のC5クラスでは、イギリスの(健常者の)国内選手権個人追い抜きのチャンピオンでオリンピックも目指しているSara Storeyが圧勝。このコース2周33分36秒40、時速40.7キロというのはやはり驚異的。ぜひオリンピックでも成功してほしい。パラサイクリングの価値を高めてくれるだろう。

奥村のコメント「自分のレベルが分かった。ロードレースはトップ集団について行き、行ける所までついて行けるよう頑張る」


テクニカルで冷静な走りだった奥村

8月20日(金)2日目 ロードタイムトライアル
藤田悔しい11位・・トラブルに泣くも対等の走り

 2日目は阿部学宏と藤田征樹がそれぞれ男子C5と男子C3のロードタイムトライアルに出場。いずれも2周22.8キロだ。朝方雨が降り心配されたが、食事をするころには上がり、いつものようなさわやかな天候になった。

 ロード世界選初出場の阿部学宏は、実業団BR1のレースに出ている、ロードには慣れた選手。日本のBR1選手がどれだけパラサイクリングでやっていけるか。午後1時21分、26人中6番目のスタートだ。
 「1周目は体が動かなかった」と言う通り、あとからスタートの選手数人に抜かれる。しかし後半は盛り返していた。順位は23位だったが、後半の走りをさらに高めて、日曜日のロードレースに挑めれば。なおこのクラスの優勝はイタリアのTarlao。 UCIコンチネンタルチームで活躍している豪のマイケル・ギャラガーが9秒差で敗れる波乱。 パラサイクリングのレベルの高さ・広がりを改めて感じさせた。C5やC4は一般健常者エリートと何ら変わりがないかそれ以上。この事実には多くの自転車関係者に気がついてほしい。

 実績も備えている日本の若手No.1,藤田征樹がそのあと行われた男子C3クラスのTTに出場。Cクラスは昨年までは脳性まひ(CP)と運動機能障害(LC)に分かれていたが、今年から統合され、それまでの6つのクラスから5つになった。藤田はこの影響を受け、これまでは別カテゴリーだった多くの強豪選手と同じクラスに。特にイギリスの強豪がずらり。どこまで行けるか不安はあったが、若い藤田は不安を打ち消してくれる、力ある走りを見せてくれた。
 17人中9番目、午後2時19分スタートランプから飛び出した藤田は初周から良いペース。厳しい登りも快調に駆け上がる。下りコーナーのスピードも海沿いの向かい風でのスピードも良い。ここから1周目ゴールまでのスピードは非常に鮮やか。奥村に続いてポイントゲット・上位入賞の期待がかかる。しかし2周目に入ってアクシデントが。2つ目の小さなアップでチェーンが外れる。すぐに対応するが再び外れる。サドルを叩いて悔しがる藤田。手間取りタイムロスしていく。再び走り出すとサポートカーからは「冷静に! クールに走れ!」と声をかける。何とか気持ちを取り直し、最後の数キロのスピードは再び快速に。ゴールするも、わずかに届かず、11位だった。
 ゴール後、ハンドルにも問題があったとも。事故が無かったことには安堵した。
 最後半周のタイムは7位に相当し、タイムロスや不安定なハンドルによる心理面のマイナスが無ければやはり6位〜8位には入っていただろうから、何とも残念。 それでも荒れることなく、歯を食いしばりながらも対応する藤田に成長の証を見た思いだった。
 アクシデントは残念だったが、それでも実力的には上位とそん色がないことが分かった。07年ボルドーの時が7位だったことを思うと、あのころと順位的にはあまり変わりがない。ロードレースやトラックの1キロ・個人追い抜きで十分対等にやっていける確信を持てた。
 このクラスの優勝はイタリアのViganoでタイム34分59秒56、時速39キロはやはり早い。イギリスのWaddonは約1分遅れで4位。同じイギリスのMckeownが3位、2位はGalletaud(仏)。 なお男子C2クラスはMacchi(伊)が優勝、タイム36分1秒。 男子C1クラスはTeuber(独)が36分55秒、時速37キロで優勝。

 これ以外では、以前のCP4のほとんどとLC2のほとんどが合併したようなC4において、チェコのJezek(やはりUCIコンチネンタルチームで活躍)がスペインのAlcaideを押さえて優勝。平均42.7km/hのハイスピード。3位にはおはじみのNeira。 やはり激戦の男子タンデムは30台が出走、スペインのBlanco/Moralesペアが優勝した。その時速45.9キロ。

 阿部のコメント「1周目は体が今一つ動かなかったが、後半は盛り返せた。総合的にはまだまだ。日曜日(ロードレース)は集団につけたい。がんばります」
 藤田のコメント「新しいクラスで初めてのレース。メンバーなどを憶えないと行けないので、そのきっかけになった。メカトラブルが残念だったが、運も実力のうちかも。明日またがんばります。」


スタートした阿部学宏

切れずに最後まで冷静に走った藤田

8月21日(土)3日目 ロードレース
レース作った藤田 登りを耐えきった奥村

 3日目からは自転車競技の花形、ロードレースだ。 この日は午前10時から奥村直彦が出走する男子H3ロードレース(4周45.6キロ)と午後4時から藤田征樹が出走する男子C3ロードレース(5周57キロ)がある。 奥村も藤田も、TTで好走し、ロードレースに大いに期待がかかった。

 10時からスタートの男子H3ロードレース(出走16人)。奥村は10名ほどの先頭集団について行くが、ピッチが速い。最初の登りに入る手前で少しばかり離れ気味。このあと登りに入って遅れたのだろう、その後2周目に入るときには周団から離れていた。 きつい登りを必死に1人走っていく。 しかしやはり集団とは距離があった。 それでも迫りくる後続に抜かれることは無く、12位でゴールした。 
 ハンド選手にとっては厳しいコースだったが、奥村もTTでは十分戦えることは示してくれた。ギア比の改善(のぼりに有利なギアを使いこなす)など更なる精進に期待したい。
 
 男子C3ロードレースは午後4時スタート。C2とC1クラスと同時スタートの混走だが、表彰はそれぞれのクラスごとに行われる。(C3は出走18名)
 藤田にスタート直後にまたもやアクシデントが。大集団でのスタートの混乱に前の選手がバランスを崩し、そのあおりもあって藤田が転倒。そこで再びチェーンが…。 しかしここでも冷静に対応した藤田は、すぐに集団に追い付く。
 3周目の長い登りでは、先頭集団を引っ張り、レースを積極的に作っていく。その後アタックが繰り返され、3選手が抜け出し、藤田は10人ほどによる第2周団。 最終5周回に入る前に藤田が仕掛ける。しかし最後の長いのぼりに入ってすぐにつかまり、その後は残念ながら後退。惜しくも11位だった。
 ゴール後は悔しがっていた藤田だが、新しいクラスになりライバルが激増しても、対等にやっていけることは今回証明してくれた。トラックの大会と合わせて、今後が楽しみだ。自身を持って引き続き努力を重ねていき色々な方々からの協力を得れば、必ず良いことになるだろう。

レース後のコメント:
奥村「残念の一言です。実力が足りなかったのでは。練習量も少なかったのかも。それでも勉強になりました。また頑張ろうと思いました。」
藤田「展開もあったけど、自分で動くことは出来た。結果につながらなかったので残念に思います。自力の不足を感じたのでこれまでよりも厳しく練習していきます。色々な人の協力が必要で、協力をして頂けるように頑張っていきたいと思います。」


スタート前、石田トレーナーが
奥村をほぐしてくれた

スタートチェックにサインする奥村


集団からは離れたが苦手な登りを最後まで回し切った

Cクラスは同時スタートになったため、スタートは大混乱。
沿道にはあふれんばかりの人が連なって、
レースを盛り上げた。まるでお祭り。

C3クラス 集団が形成され藤田もこの中に
(右から2人目)

3周目の登り頂上付近、先頭を引っ張る日本の藤田
積極的にレースを作った走りは立派

8月22日(日)4日目 ロードレース
骨折、両腕使えずも 魂の走りで阿部C5ロードを完走

 2010UCIパラサイクリングロード世界選手権は4日目、最終日を迎えた。午前8時からのC5男子ロードレース(C4と同時スタート、距離は7周79.8キロ)に阿部学宏が出場。現地関係者も感銘を受けたガッツある走りで骨折にもかからわず完走した。

 レースはC5/C4同時スタート。56名ほどという大人数でのレースとなった。混乱が心配されたが、初周の長いのぼりを入ったところでその危惧が現実に。大集団でバランスを崩して落車選手が発生。それに後続が乗り上げるなどしてC4と合わせて10名以上が棄権を余儀なくされた。 阿部もこの落車に巻き込まれ、左半身特に腕を強打。右腕に麻痺があり握力がほとんどない阿部にとっては致命的な怪我。それでもしばらくして立ち上がると再乗してアンビュランスを振り切るように登っていく。 上位集団とは大きく離れるがそれでもペダルを回していく。
 ハンドルを握るのも痛く、ギアチェンジをやっとの思いで行い、ハンドルに手を添えるだけの状態が続く。それでも顔をゆがめながら気持ちで最終周回へ。ゴール。
 ゴール後、すぐにメディカルケアを受け、そして病院へ。レントゲンの結果、左手甲の骨折。何と、自由に使える左手を骨折、両手がほとんど使えない状態で、あのハードなコース7周79.8キロを完走した。
 治療が終わって病院から会場のメディカルエリアに戻ると、最初診断した医師が「折れていたのにあのコースを7周も完走するなんて。感動しました。」 周りにいたメディカル関係者やポリスらも阿部を絶賛。サインを求める人もいた。

 これで全ての競技を終了。メダルや上位入賞は無かったが、ポイントはわずかであっても獲得し、新しいクラスでも十分戦えることを確認でき、それぞれの選手は貴重な経験をした様子。今後に生かしてくれることだろう。

 その他の主な結果では、C5は何とブラジルの3選手が周団をうまくコントロールし、そこから3人でうまく抜け出し金・銀・銅を独占。 2016年リオに向けて素晴らしいスタートを切った。同時スタートしたC4男子のロードレース(距離同じ)ではスペインのNEIRAがイタリア選手とのゴールスプリントを制し、ガッツポーズで優勝のゴール。 T2男子はイギリスのDavid STONEが復活の金メダルでRTTと合わせて2冠。

阿部のコメント(帰国後)「(最初の登りでの落車に巻き込まれたため)レースらしいレースが出来ず、残念。怪我は1カ月くらいかかりそうですね。


C5C4同時スタート。有力選手がズラリ。中にはUCIコンチで活躍している選手も。真ん中やや左に阿部。その奥にはスペインの強豪選手Neiraらも。

右手は生まれつきの障害で使えず
左手は落車で骨折
激しい痛みに耐え魂の走り

初周の集団落車に巻き込まれ、
使える左手を骨折したままゴール

ゴール後会場内で治療を受ける阿部
このあと病院で骨折が判明


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